RESEACH
原子炉における過酷事故事象解明と安全な材料処理のための研究
福島第一原子力発電所の廃炉に向けた研究
2011年3月東日本大震災の発生を契機に福島第一原子力発電所の1、2、3号機は停止後の炉心冷却に失敗し炉心が溶融する”過酷事故”に至りました。圧力容器へ注水ができなくなり、圧力容器内の水位が低下、燃料温度が上昇して炉心を構成する材料反応によって燃料溶融や大量の水素発生、圧力容器の破損、格納容器の破損、原子炉建屋への水素および放射性物質の放出に至るという経過をたどりました(⇒福島第一原発事故の経過(東京電力ホームページ)。
原子炉の炉心には様々な材料が用いられています。燃料ペレットには3~5%濃縮ウラン235を含むUO2、燃料被覆管にはジルコニウム合金、核分裂反応を制御するための制御材料としてB4C、その他構造物としてステンレス鋼などがあり、燃料温度が上昇するとこれらの材料が複雑に反応して燃料デブリが形成されます。また、この過程で水蒸気によるジルコニウム酸化反応で大量の水素が発生します。事故進展の中でどのような反応を経由して燃料デブリが形成されたのかを評価することは容易なことではなく、とくに福島第一原発事故は複雑な事故進展を辿っていることから、いまだ未解明な点が残されています。福島第一原発の廃炉を安全に進めるためには、燃料デブリの性状や分布を事故進展事象と照らし合わせて評価しておくことが非常に重要であり、燃料デブリ取出しに向けた喫緊の課題とされています。
このような課題に対応するべく、小林研究室では廃炉研究として次のようなテーマに取り組んでいます。
- ジルコニウム合金とステンレス鋼の高温反応
- 圧力容器破損に関連するステンレス鋼の高温反応
- セシウム酸化物の高温熱力学
また、2020年度よりTEPCO廃炉フロンティア技術創成協働研究拠点プロジェクトに参加し廃炉に資する具体的なデータの提供を目指しています。
軽水炉の安全性向上に関する研究
カーボンニュートラル社会を実現するには原子力エネルギーの利用は必須です。地震などの災害時や不測の事態が発生した場合に、過酷事故に至らないような工学的措置が適切になされているかどうかを評価する必要があります。炉心が溶融するタイミングを適切に評価し冷却機能の回復が可能なアクシデントマネジメントが設計されているかどうかを評価しなければなりませんが、そのためには炉心の材料反応をよく理解したうえで適切なモデルを用いたシミュレーションを実施することが求められます。小林研究室では、国内外の研究機関と連携して燃料溶融モデルの開発に取り組んでいます。
原子力研究における国際協力
原子力材料の研究は、ヨーロッパ・アメリカ・ロシアなどの国際協力の枠組みで知見を共有しながら進めていくことが重要です。小林研究室では国内外の研究機関との連携を大切にしたうえで、高温金属融体の実験・計算という強みを活かした独自分野の開拓を目指しています。
これまでに次のような国際研究プロジェクトに参加しています。